田中宇

カシュガル、ホータンといった南新疆地域は、住民の85%がウイグル人で漢人は15%しかいないが、新疆の中心地である大都会(人口300万人)のウルムチは逆に人口の8割が漢人だ。ウルムチのウイグル人もイスラム教徒だが敬虔でなく、ラマダンも、まったくやらないか、1日とか3日間だけやって終わりという人が多い。ラマダンをしている人は昼間、できるだけ動かずじっとしていようとするが、職場に漢人が多いと、ウイグル人だけラマダンで動かないわけないかない。ウルムチのウイグル人は、比較的所得が高い中産階級だと、モスクにほとんど行かない人がかなりいる。大都会のウルムチと、地方都市や農村の南新疆では、ウイグル人のイスラム信仰の濃さがまったく異なる。 私が話をしたカシュガルのウイグル人は「ウイグル人は大昔から敬虔なイスラム教徒だ」と言っていたが、20年ほど前にカシュガルを訪問した日本人によると、当時のカシュガルでは、他の中国の諸都市と同様、多くのレストランで飲酒しており、ウイグル人の男たちは酒が大好きだったという。今でも、省都のウルムチのウイグル人は酒を飲む人が多い。しかし、カシュガルのウイグル人はほとんど飲酒しない。 カシュガルなど南新疆のウイグル人が今のように熱心なイスラム教徒になったのは、01年の911事件後、米国のイスラム敵視策に呼応するかたちで、アラブ諸国の人々がイスラム教徒として覚醒したことに影響されている。 イスラムが弾圧されるほど強くなる宗教だから、米国が911後にイスラム世界の全体に宣戦布告した「テロ戦争」は、世界中のイスラム教徒の信仰を掻き立て、イスラム教が強くなって米国が中東から撤退せざるを得なくなる事態につながっている。中国政府は、米国のテロ戦争と似たやり方で、南新疆のウイグル人を宗教的に抑圧している。その理由の大きなものは、中国共産党が宗教を嫌っているからだ。イスラムテロへの対策を練る際に、米国やイスラエルの「専門家」の助言を受けているが、そうした助言が、中国共産党のイスラム弾圧策に拍車をかけた可能性も、少しあるかもしれない。